妊娠を理由とする雇い止め

 

妊娠により通常業務に従事できそうもないため、契約期間満了時に契約を更新しなかった。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯

平成7年4月1日、X社は契約期間を1年とする臨時職員として、Aさんを採用しました。

その後X社は契約を2回更新しましたが、3回目の更新に際して、Aさんに対し平成9年4月1日以降契約を更新しない旨の告知をし、更新を拒絶しました。

Aさんは納得がいかず、会社を訴えることにしました。

各々の主張は以下の通りです。

 

Aさんの主張

雇用契約は1年毎に更新することにはなっていますが、次の事実に照らし合わせれば、実質的には期間の定めのない雇用契約と解釈されるので、契約の更新拒絶は解雇処分に当たり、解雇に関する法理が類推適用され、期間満了をもって当然に契約が終了するようなことはありません。

 

・採用時の面接において、X社の担当者から契約更新の期待を生じさせる発言があったこと

・契約更新手続が形式的であったという実情

・X社においては雇い止めの実績がほとんどないこと

・臨時職員が、一時的・臨時的なものではなく、恒常的な存在であったこと

・臨時職員の雇用条件が契約更新を前提としていることに照らし合わせれば、実質的には期間の定めのない雇用契約であるか、もしくは契約が更新されて雇用が継続されると期待することが当然であること

 

また、会社から「妊娠している状態では、夜勤や休日出勤を含む通常業務ができない」として、契約の更新を拒絶されました。

 

これは明らかに妊娠を理由とした雇い止めであって、このような雇い止めは、勤続1年を超えた臨時職員の育児休業取得を保障する育児休業規程に反するばかりではなく、男女雇用機会均等法、ひいては憲法上の法の下の平等の精神に反するものとして、公序良俗に反し違法です。

 

X社の主張

採用の際、契約が1年の期間を定めたものであり、期間満了時に必ずしも更新されるものではないことを十分に説明しています。

 

雇用期間の限定された臨時職員の制度は、経営上の必要から職員構成を変更せざるをえないときに、人件費の高騰を抑えるという側面のほか、職員構成の変更を柔軟に行うという側面があります。

 

平成6年から平成9年までに退職した臨時職員17名中9名が雇い止め通告によるものです。

 

また、平成9年2月14日、直属の上司と人事部長がAさんの面接を行い、通常勤務ができるかどうか確認したところ、Aさんの回答は「妊娠しているので夜勤はできません。」というものでした。

 

このため、人事部長らは「通常勤務ができないなら今回は契約更新できず、雇い止めです。」と通告しました。

 

これに対してAさんは「わかりました。」と言って承諾しましたし、その後同年3月11日に期間満了によりAさんを雇い止めにするとの掲示をしましたが、Aさんからの異議の申し出はありませんでした。

 

また同年3月15日、Aさんが勤務していた職場の同僚による送別会が行われ、そこでAさんは「長い間お世話になりました。」と挨拶をし、また出席者1名当たり2,000円の餞別をもらっていたのは、Aさんが雇い止めを了承していたことの表れと言えます。

 

会社としてAさんを雇い止めとしたのは、あくまで期間満了による雇用契約の終了を原因とするものであって、妊娠を理由とするものではなく、通常業務ができないことにより、会社の定める採用条件に合致しなかったからにすぎません。

 

 

さて、この訴えの結末は・・・

 

 

労働者側の勝ち:期間満了による契約終了は不可、妊娠を理由とする雇止とされ無効

 

【主旨】

 

契約期間が満了しても、当然には契約が終了しない

以下の状況に鑑み、X社とAさんとの契約関係には、解雇に関する法理を類推適用するのが相当であり、契約期間が満了しても当然には契約が終了しない。

 

・臨時職員が採用されるようになって以来、正規職員に採用される者を除き、臨時職員のほぼ全員が契約を更新され、退職するものはごくわずかであった。

 

・臨時職員は、基本的に正規職員と同様の業務に従事している。

 

・平成7年4月1日に実施された臨時職員就業規則には、

「勤続1年を経過した臨時職員は、毎年1回4月に昇給し、昇給額は俸給表により勤続年数に応じた増額が図られる」

「賞与の支給について、継続して1年以上勤務した臨時社員については、夏季賞与及び年末賞与を支給する」

「臨時社員として採用された者で、雇用契約を反復更新し、勤務成績及び技能優秀と認めた者を正規社員として採用することがある」

等と規定されている。

 

・Aさんは採用時の面接において、人事部長から「1年ごとに契約するのですが、よろしいですか?よほどのことがない限り、1年で辞めさせるということはないのですが。」と言われた。

 

・契約更新の際には、単に事前に用意した契約書に署名、捺印を求められるだけであった。

 

通常勤務ができなくなった理由が妊娠であれば、期間満了による雇い止めだとしても無効になる

Aさんは、平成9年2月14日の時点で妊娠しており、やがて通常勤務ができなくなることが明らかとなっていたのであって、X社はそのことを認識した上でAさんを雇い止めにした。

 

実際のところ、Aさんを雇い止めとした理由は、Aさんが妊娠したためであったと言わざるをえない。

 

事業主が、妊娠や出産を退職の理由として予定したり、解雇の理由としたりすることは、男女雇用機会均等法において禁じられており、その趣旨は解雇の法理が類推適用される今回の事例でも、当然に該当する。

 

つまり、臨時職員が通常勤務ができなくなった場合であっても、それが妊娠したことによる場合には、期間満了による雇い止めは更新拒絶権を濫用したものとして、無効である。

 

 

(参考判例)

正光会宇和島病院事件