年俸制の残業代

 

年俸制を導入しているので、残業代を支払わなかった。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯

S社は、測量・土木工事の設計・管理などを行う会社です。

AさんはS社に平成9年1月6日に入社し、3ヶ月の試用期間を経て、平成9年4月から正社員となりました。

 

S社は、Aさんを正社員に任用する際に、年俸制を採用することにしました。

具体的には、残業代、諸手当、および賞与を含めて、年俸額を300万円とし、その12分の1である25万円を毎月支給するという内容です。

AさんはS社の社長および常務から、この年俸制に関する条件の説明を受けました。

そのうえで雇用契約書を受領し、いったん持ち帰った後、署名押印して会社に提出しました。

 

その後、毎月渡される給与明細には、基本給の欄に250,000円、支給合計欄に250,000円と記載されており、"時間外労働手当"の名目では支給がありませんでしたが、Aさんは特段抗議をしませんでした。

 

 

それから3年経った平成12年4月、Aさんには異動命令が出ました。

それまでは登記測量業務担当でしたが、公共事業測量担当となり、工期が定められているので、どうしても時間外労働が多くなります。

そこでAさんは、会社に時間外労働に対する割増賃金を出してもらえるよう頼みました。

しかし、会社は支払っている賃金に、時間外労働手当が含まれているとして、Aさんの請求を却下しました。

 

Aさんは、残業が増えて、勤務がつらくなってきたにもかかわらず、相応の賃金をもらっていないと思い、平成12年8月8日から出社しなくなりました。

後にAさんは、退職したということでS社から離職票の発行を受けた後、実際に時間外労働をした分について、時間外労働手当の支給を請求しました。

 

 

さて、この訴えの結末は・・・

 

 

労働者側の勝ち:会社は時間外勤務手当を支払う義務がある

 

【主旨】

年俸制=時間外労働手当不要 ではない

年俸制とは、「年換算で賃金の額を決定する賃金体系」のこと。

特別な規定がなければ、年俸の額は、あくまで就業規則に定められた所定労働時間分の対価でしかない。

 

「年俸には時間外労働手当を含む」とした場合、どの部分が時間外労働手当なのかを明確にしないと無効となる

労働基準法37条の趣旨は、割増賃金の支払によって超過労働を制限することにある。

会社が、"年俸に時間外労働手当を含む"とした場合、年俸に含まれている時間外労働手当部分が、実際の時間外労働から計算された額を上回っていれば問題ないが、下回っている場合は無効と解釈される。

 

年俸の時間外労働手当部分 ≧ 実際の時間外労働から計算した額  → ○

年俸の時間外労働手当部分 < 実際の時間外労働から計算した額  → ×

 

年俸に含まれる時間外労働手当部分が明確に定められていないと、実際の時間外労働との比較ができないので、やはり無効と解釈される。

 

参考条文

労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)

使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ命令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 

2 前項の命令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。

 

3 使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 

4 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他命令で定める賃金は算入しない。

 

【このようなトラブルを起こさないために】

会社側

どの部分が基本給で、どの部分が時間外労働手当なのかを明確に区分し、その計算根拠を明らかにしておく。

労働時間が超過とならないよう、しっかりと勤怠管理を実施する。

裁量労働制が適合する業務については、その導入を検討する。
ただし、実態が"通常当該業務に必要とみなされる時間"からかけ離れているなら、問題となることに注意する。

 

労働者側

雇用契約書の内容は重要なので、不明な点は早めに解消しておく。

 

(参考判例)

創栄コンサルタント事件