契約社員の育児休業取得

 

契約期間を更新した契約社員の育児休業取得を拒否し、期間満了を理由に退職させた。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯

Aさんは、社団法人Nとの間に、平成8年5月16日付けで、以下の雇用契約を締結しました。

 

・雇用期間は、平成8年7月1日から平成9年6月30日まで。30日以前に当事者のいずれかから異議がない限り、契約は自動的に更新される。

・就業時間は、9時30分から午後5時30分まで。

・職務内容は、事務局長の個人アシスタント及び情報セクションのアシスタント。

 

最初の1年間の契約(以下、初期契約とします)は、期間満了後自動的に更新され、その後Aさんと社団法人Nとの間の労働契約において、契約書は作成されませんでした。

 

その後Aさんは、第1子の出産のため、平成9年7月23日~同年11月16日まで、第2子の出産のため、平成11年7月31日~同年11月21日まで、第3子の出産のため、平成13年12月14日~平成14年4月14日まで、それぞれ産前産後休暇を取得しました。

 

そしてAさんは、第3子の産後休暇が終了した後、4月15日から子供が1歳になるまでの期間、育児休業の取得をしたい旨事務局長のBさんに請求しました。

 

するとBさんは、「Aさんの雇用契約は期間1年の有期雇用なので、育児介護休業法の適用はありません。また、Aさんとの雇用契約は、今年6月末日をもって期間満了により終了とし、契約を更新しません。その代わりに、特例としてですが、契約期間中は出社しなくても給与を全額支払うという形をご提案させていただきます。」と回答しました。

 

Aさんは納得がいかず、社団法人側と争うことになりました。

 

※育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

第2条 (育児休業の対象者)

1 育児のために休業することを希望する従業員であって、1歳に満たない子と同居し、養育する者は、この規則に定めるところにより育児休業をすることができる。

2 1にかかわらず、日雇従業員及び期間契約従業員は育児休業をすることができない。

 

Aさんの主張

初期契約の契約書は更新拒絶について触れていませんから、初期契約は業績を評価するための試用期間と解釈するべきであり、私はそう理解していました。

 

この契約を締結した当時、別の会社でフルタイムの正社員として働いていましたから、辞めてわざわざ有期雇用の契約を締結するとは考えられませんし、1年契約であるとは事務局長からも説明を受けていません。

 

仮にこの契約が期間の定めのある労働契約であったとしても、5回更新をされたこと、更新の際に何らの手続きも行われなかったこと、フルタイムの雇用で、複数回昇給していること等からすれば、実質的には期間の定めのない契約と変わらない状態であったと言えます。

 

そのため、雇い止めには解雇権濫用法理の類推適用がありますし、育児介護休業法の適用も受けることができるはずです。

 

 

社団法人Nの主張

初期契約の契約書は、期間の定めが明記されており、試用期間との記載はなく、Aさんはこれに何ら異議を述べずに契約しています。

 

そして、契約を更新した場合に、期間に関する内容を変更するとの記載もありませんので、更新によって期間の定めのない契約になるとはいえません。

 

有期労働契約が自動更新により、期間の定めのない労働契約に転化するということはありませんから、Aさんの主張は的をはずれています。

 

また、解雇権濫用法理の適用があるとしても、Aさんは正規従業員と比べて劣後した地位にあるというべきで、解雇回避努力の程度は異なります。

 

この場合、人員削減の必要性、解雇回避努力、非解雇者選定の合理性、手続的適正のいずれの観点からも合理性があり、解雇権の濫用とは言えません。

 

 

さて、この訴えの結末は・・・

 

 

労働者側の勝ち:更新後は期間の定めのない契約とみなされる

 

【主旨】

初期契約は有期雇用契約

Aさんは、社団法人Nから、期間の定めが記載された契約書の案を示されて、これを異議なく承諾したことが認められるので、初期契約は期間の定めのある労働契約であったものと認めるのが相当である。

 

契約書に更新後の扱いについて記載がない場合は、当事者の言動から類推される

初期契約は、期間の定めのある労働契約であり、平成9年7月1日をもって自動的に更新された。

 

この更新後の契約が、期間の定めのある契約なのか、期間の定めのない契約なのかについては、初期契約の書面には記載されていないので、その前後の当事者の言動等により客観的合理的に判断するしかない。

 

今件でいえば、期契約の締結後からこれまで、

 

・書面でも口頭でも更新手続が一切なかったこと

・労働契約に期間の定めがあることを確認する手続が一切なかったこと

・Aさんの昇給が、初期契約の更新時期である7月1日とは無関係な時期に行われていたこと

・Aさん以外の有期雇用者は、毎年度契約書を作成して更新手続をしていたが、Aさんには契約書作成はおろか口頭で更新意思の確認すらしなかったこと

 

等を総合的に判断すると、初期契約の更新後は、期間の定めのない労働契約として存続していたと認められる。

 

であれば、解雇権濫用法理及び育児介護休業法の適用を受けることになる。

 

 

(参考判例)

日欧産業協力センター事件

 

解説

正社員の場合、すなわち労働契約の多くは契約期間の定めのないものですが、近年企業が労働者の雇用に関して慎重になっているため、期間を定めた労働契約を締結するケースが増えています。

 

契約期間を定める場合には、3年を超える期間について締結してはならないことになっています。(専門知識を有する者や60歳以上の高齢者については5年が限度)

 

そして、期間雇用契約の場合には、期間満了時に使用者が異議を述べないと黙示の更新となり、以後は期間の定めのない契約と解釈され、また更新を重ねて相手方に更新期待状況が生ずるときも期間の定めのない契約と類似のものと解釈されますので、このような場合には、期間雇用契約といえども、期間満了時に使用者側から契約を終了する行為は「解雇」と類似した取り扱いになります。

 

期間雇用契約を締結するとき、契約を更新するとき、そして契約を終了するときには、上記のような法律知識を踏まえた対応が必要になります。