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契約更新の拒絶


勤務態度不良を理由に、契約社員の契約更新を拒絶した。

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

事件の経緯

S社は衣料品の販売を営む会社であり、全国の百貨店に設けられた売場に従業員を配置し、販売業務に従事させています。

S社の従業員としては、雇用期間の定めがない正社員のほか、「一般販売員」及び「販売社員」と呼称している期間を定めた契約を結ぶ契約社員がいます。

「一般販売員」とは、S社の販売業務に従事する者のうち、大部分を占める雇用形態で、基本的に賞与の支給はなく、退職金制度も設けられていません。

「販売社員」とは、各職場のリーダーと位置づけられ、得意先との折衝、後輩の育成、売場の商品構成決定への関与など、役割や責任も一般販売員に比べて高度なものを要求されます。給与の支給は賞与を含む年俸制によって処遇され、退職金制度もあります。なお、正社員については勤務地の限定がないのに対し、販売社員は各支店に限定した採用が行われます。

AさんはS社との間に、「販売社員」として雇用契約を締結しました。
契約期間は平成元年7月1日から1年間ということでしたが、これまで11回契約を更新しています。

しかしながら、Aさんはいくつか問題行動を起こしていました。

平成9年9月にK店がオープンしたのに伴い、店長に就任しましたが、売上は不振であり、上着を着用せず接客したため3回ほど注意を受けました。そのためT店の店長に異動となりました。

T店でも売上は低迷し、しかも在庫管理帳を作成しなかったため、平成11年7月の契約更新にあたり、S社は「一般販売員」への契約変更を提案しましたが、Aさんは異議を唱えたので、契約は更新されました。ただし、今まであったセールスチーフの肩書ははずされ、セールスチーフ手当も支給しないことになり、賞与も年間20万円減額するということで、双方が合意しました。

さらに、昼の休憩時にビールや日本酒を飲んでいたことを注意されたため、平成12年7月の契約更新時に、S社は退職を勧奨しましたが、Aさんが拒否したため、さらに年間賞与を20万円減額するということで、1年間契約を更新しました。

ところがその後も、売場在庫の不足を不正に隠蔽しようとして発覚し、怠慢な接客によりクレームを多々発生させ、また納品伝票13枚と返品伝票17枚を電車の網棚に置き忘れました。

そのためS社は平成13年5月29日に、Aさんに対して平成13年6月30日の契約期間満了をもって、雇用契約を更新しない旨の通知をしました。

Aさんは、雇用契約の更新拒絶は無効とし、賃金の支払を求め、訴訟を起こしました。

さて、Aさんの言い分はどのようなものでしょうか?

Aさんの主張

販売社員となってから11回も契約を更新してきたわけなので、このままずっと更新されると思うのが普通です。

また、販売社員就業規則には定年が定められているし、有給休暇や退職金制度など、契約更新が当然予想されているとしか思えません。
実際の労働条件や採用環境がほとんど正社員と変わらないことを考えれば、契約の更新は形式的なものに過ぎず、その更新拒絶は解雇権の濫用法理が類推適用されることは明白です。

クレームはいずれも軽微で解決済みですし、伝票の紛失についてはただちに上司に報告している上に、これらには控えが存在していたため、伝票処理が遅れるなどの実損は生じていません。

また、在庫管理については妥当だとは言えないにしても、S社のなかでは以前から頻繁に行われていたもので、いわば暗黙の了解となっていました。

よって、これらを解雇の理由とするのは相当ではありません。

さて、この訴えの結末は・・・

会社側の勝ち:更新拒絶はやむをえない

【主旨】

更新回数が多ければ、解雇の法理を類推する

販売社員として11回も契約を更新していることを考えれば、契約更新を期待することには合理的な理由がある。

期間満了により雇用契約を終了するに当たっては、解雇に関する法理を類推することが妥当といえる。

そのため、雇用契約の更新を拒絶することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認できない場合には、期間満了後も雇用契約が存続するといってよい。

正社員と比べれば、合理性の判断は緩和される。

Aさんのような販売社員は、一般販売員より高い役割と責任を持つ。

また、本人の勤務成績や期待される職責・成果等をもとに、1年毎に給与額を見直すことを前提としている。

この場合、給与額に見合う労働能力や勤務成績が伴わないという理由で雇用契約の更新を拒絶するのであれば、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない雇用契約を締結している正社員が同様の理由で解雇される場合と比較すれば、その合理性は緩やかに判断されるべきである。

契約更新拒絶は権利の濫用に当たらない

在庫不足については、在庫管理帳を記載するなどして日々の在庫確認を行うなど、店長として本来なすべき在庫管理を十分に行ってこなかったことが要因となっているにもかかわらず、Aさんはその発覚を隠蔽するため不正処理を行ったというもので、その動機に酌量する点などない。

クレームについては、一般販売員ならともかく、一般販売員を指導する立場である販売社員としての基本的な適格性に疑念を抱かせる行為というべきものであり、伝票紛失行為についてもAさんの重過失にもとづくものである。

したがって、Aさんが販売社員であることに照らし合わせてみれば、S社が上記を理由として更新拒絶をしたとしても、やむをえないというべきである。

(参考判例)

三陽商会(販売社員契約更新拒絶)事件

解説

正社員の場合、すなわち労働契約の多くは契約期間の定めのないものですが、近年企業が労働者の雇用に関して慎重になっているため、期間を定めた労働契約を締結するケースが増えています。

契約期間を定める場合には、3年を超える期間について締結してはならないことになっています。(専門知識を有する者や60歳以上の高齢者については5年が限度)

そして、期間雇用契約の場合には、期間満了時に使用者が異議を述べないと黙示の更新となり、以後は期間の定めのない契約と解釈され、また更新を重ねて相手方に更新期待状況が生ずるときも期間の定めのない契約と類似のものと解釈されますので、このような場合には、期間雇用契約といえども、期間満了時に使用者側から契約を終了する行為は「解雇」と類似した取り扱いになります。

期間雇用契約を締結するとき、契約を更新するとき、そして契約を終了するときには、上記のような法律知識を踏まえた対応が必要になります。

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