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偽装解散
賃金制度にメスを入れないと赤字が解消できないのに組合が応じないため会社を解散、社員を解雇した上、別の会社を受け皿にして事業は継続した。
※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。
事件の経緯
D社は、タクシー事業を中心とした、多数の子会社を抱える企業グループを形成しています。
D社は、平成13年3月30日に、大阪府泉佐野市を中心とする泉州交通圏においてタクシー事業を営んでいるS社を買収しました。これにより、S社の代表取締役、取締役及び現場管理者に、D社の取締役ないし従業員が着任しました。また、S社の経理や事務の管理は、D社において行われることになりました。
そもそもD社は、S社の経営赤字の主要因は高水準の賃金等の人件費負担にあり、賃金体系の見直し等を行えば、収益をあげる会社に経営再建できると考えてS社を買収した経緯がありました。
そのためS社では、D社に買収された直後の平成13年4月に、経営再建を理由に旧賃金体系の見直し案を提案し、同年5月頃から新賃金体系に基づく給与支給を実施しました。
この措置を了承した社員もいましたが、組合や一部従業員はこれに反対し、裁判紛争になりました。
D社及びS社は、賃金体系の見直しがS社再建の最低条件と考えていましたが、どうしても組合の了解を得られず紛争に決着がつきません。
そこでD社は、S社を解散廃業し、新たに泉州交通圏に営業所を立ち上げて、新賃金体系で経営運営することにしました。
そのため、D社の別子会社であるM社の、泉州交通圏への事業区域拡張申請を行い、新たに営業所を設立しS社の従業員を雇い入れ、平成15年2月16日より営業を開始しました。
その際D社は、組合員でも希望すれば採用するとの姿勢を示していましたが、組合員は応募しませんでした。
D社は、S社が経営破綻していると考えていましたが、S社が100%子会社であることや、取引先・顧客との関係も考慮して、解散して債務整理する方針を採りました。
そしてS社は、平成15年4月15日をもって営業活動を停止し、組合員等S社に残っていた従業員を解雇し、同年5月12日に臨時株主総会を開いて解散決議をしました。
組合員らは、D社を訴えることにしました。
組合側の主張
D社は、S社の買収後、組合の壊滅を狙って、賃金カット、差別的配置転換、組合員の脱退工作等、数々の不当労働行為を繰り返してきましたが、組合闘争、裁判闘争での惨敗を重ねたため、最後の手段として、M社を泉州交通圏に進出させることによりS社を計画的に解散・廃業させて、会社もろとも組合を潰すことを策略し実行しました。
D社はあらゆる面でS社を一体的に管理支配していたのであり、S社はD社の一営業部門にすぎず、S社の法人格は形骸化していました。
また、D社は自ら支配するS社の法人格を濫用し、組合員の解雇を目的としてS社の解散及び解雇を行いました。
いずれにせよ、子会社はその存在を否定されるので、子会社と労働者との関係は、そのまま親会社と労働者との関係と同一視され、親会社が行ったこの解雇は、不当労働行為に該当し無効となります。
D社の主張
S社は、実質的に債務超過の状況にあり、かつ債務超過の状況は組合との係争その他の状況から改善の見込みはないと判断されたため、解散したのです。
また、S社の営業とM社の営業は同一のものではないし、D社とS社は別法人です。
したがって、本件の解散と整理解雇は有効ですし、この点についD社が責任を負う理由はありません。
さて、この訴えの結末は...
労働者側の勝ち:偽装解散であり解雇は無効
【主 旨】
会社解散による解雇は、基本的に理由を問わず有効
会社の解散が解散決議によってなされ、これに伴う解雇がなされた場合、事業主は職業選択の自由及び営業の自由の一環として、その企業を廃止する自由を持つ。
その解散が、企業を継続する意思を喪失したことによってなされた真実のものである限り、その動機がどのようなものであっても、例えばその動機が不当労働行為目的であったとしても、その解散決議は有効である。
そして、その企業が真に解散する以上、労働力は必然的に不要となるのであるから、解散を理由とする解雇も基本的に有効であると解釈される。
偽装解散であれば、解雇は無効
しかしその解散が、廃止に見せかけて新会社ないし別会社に肩代わりさせて実質的に同一の企業経営を継続している場合は、同一の会社そのものが存続しているものみなされる。
そのため、解散を理由とする解雇は解雇理由を欠く無効なものとなり、解散会社と実質的に同一の新会社ないし別会社との間で、労働関係が存続することになると解釈される。
偽装と認められるので、組合員らは労働関係上の権利を有する
諸般の状況に鑑みると、D社が支配力を発揮して、S社と実質的に同一の企業であるM社の営業所を泉州交通圏に開設して事業を継続している目的は、労働関係法令上要求される諸法理(就業規則変更の制限や解雇制限等)の適用を回避することにあると認められる。
このため、組合員らは、労働関係上の権利を、M社に対してもD社に対しても請求しても良いと解釈とされる。
(参考判例)
第一交通産業(佐野第一交通)事件
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