退職勧奨に従わない代わりに配置転換

 

営業成績の不振を理由に退職を勧奨し、拒否されたので、配置転換、降格、賃金カットを行った。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯 

■ 原告:労働者側の主張

 私は、3年前にD社に中途採用され、E営業所に営業係長として配属されました。

 

われわれの業界も競争が激化する中、私の昨年の営業成績は、1月こそ売上達成目標をクリアしていたものの、2月から7月までは平均して目標の半分くらいしか達成できませんでした。

 

8月になると、ついに上司の営業部長から呼び出され、「この成績じゃあ、ウチの会社に居場所はないぞ。転職を考えた方がいいんじゃないか?」と、言われました。

 

またE営業所の所長からも、「売上目標額の70%に達しない社員には辞めてもらうというのが会社の方針だ。」と厳しく叱責されました。

 

何とか挽回するよう必死に努力する中、仕事のストレスからか、私は大腸にポリープができ、入院してしまいました。

 

退院後に出社した私に、営業所長及び営業部長は「自ら身を引いた方が自分のためではないか?転職費用も出すし、退職金の上乗せも検討するぞ。」と言ってきました。

 

しかし私は、そもそも売上目標の設定の仕方に納得がいかないのと、営業成績が悪いからといって執拗に退職を迫られることについて、とても不快に思っていたので、自分から退職届は書くことは拒否しました。

 

さらに、人事部長や法務部長にも、直接退職勧奨を受けましたが、やはり退職届は書きませんでした。

 

さすがに会社も解雇はできないようで、その代わりに営業職から営業事務職へ配置転換を申し渡されました。

 

しかも今ではでは営業職としては高位の等級であるPⅢに属していたのですが、配置転換に伴い降格処分となり、営業事務職の給与等級であるPⅠになってしまったのです。

 

その結果月給が61万円から31万円へ、ほぼ半額に減額されてしまいました。

 

そのうえ配置転換後、まともに仕事を与えてもらえません。

 

いくら成績が良くないからといって、そこまでめちゃくちゃな配置転換をするなんて、会社はひどすぎます。

 

そもそも、うちの営業所の事情を考慮に入れていない、会社のノルマの設定自体に問題があるのでは?

 

私、配置転換も降格も無効を主張して、会社を訴えます!

 

 

■ 補足説明

 ・Cの売上実績は、事実として、同ランクの営業職員中最低の部類であった。

・売上目標は、全社目標の数値を、配置人数を基準に各営業所に割り振ることにより設定されていた。E営業所の売上目標は、入社予定者を含めた人数により設定されていたが、予定通り入社しなかったので、その分一人当たりの目標額が多く割り振られていた。

 

 

さて、この訴えの結末は...

 

労働者側の勝ち:降格が無効であるため、配転自体も無効

 

【主 旨】

配置転換そのものは違法とは言えない

 配置転換等人事権の行使は、基本的に会社の裁量に委ねられるものなので、社会通念上著しく妥当性を欠くような場合を除き、違法とは言えない。

 

ただし、配置転換された後、ほとんど仕事を与えられていないという実態からすると、人格権侵害等について争点となりうる。

 

当該降格については、客観的合理性に欠ける

 降格による賃金の減少は、労働者の経済生活に重大な影響を与えることになる。

 

そのため、"降格の原因に対する労働者が負うべき責任の度合い"、"会社が降格処分とした動機や目的"、"会社側の業務上の必要性"、"他に降格された者との比較"等、総合的に考慮して、その賃金減少の程度が客観的に見て合理性を備えていなければ、その降格は無効と解釈される。

 

このケースでは、労働者の営業能力が低いために、売上が低迷していることは否めない。

 

しかしながら、

・増員を予定とした売上目標を設定されながら、結果として増員がなされなかったため、1人当たりの売上目標額が高額に設定されていた。

・担当によって、顧客数や担当範囲の広さなどの地域特性があり、単純比較しづらい部分がある。

・D社の過去の降格事例と比較すると、この労働者ほどの大幅な降格は考えられない。

・会社側は何としても退職させたかったところ、労働者側が応じなかったために、適材適所の配置という観点からの配置転換・降格ではなく、あくまで給料の引き下げそのものが目的、嫌がらせに近いということが、経緯からいって明らか。

 

といったことから、今件の降格については、客観的合理性があるとは言えないので、無効である。

 

降格が無効であるなら、配置転換命令全体も無効

 上記理由から降格が無効である以上、この配置転換命令に基づく賃金の減少を根拠付けることができなくなるため、配置転換命令全体が無効となる。

 

(参考判例)

日本ガイダント仙台営業所事件