職掌の相違による待遇の差

 

総合職と実務職では資格・給与制度に相違を設けた。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯

Aさんは、総合建設業を営むT社に勤めており、平成16年3月31日に定年退職しましたが、その際に賃金の差別的取扱い等を訴えました。

 

■職制について

当社の職掌制度は総合職と実務職とに区分されており、私は実務職に区分されていました。

 

しかしながら、総合職と実務職の間には、勤務地の差異があるに過ぎず、実際に担当している職務内容については差がありません。

私について言えば、1級建築士、1級施行管理技士、インテリアプランナーといった資格を取得しています。

 

また、労働大臣指定通信教育OJTマスターコース、革新管理者実践コースをそれぞれ終了しており、T社内の工事技術賞、開発技術賞等を受賞したほか、外務本省新館の設計やM銀行栃木芳賀ビルの設計を担当し、さらに社内において先見性のある意見を述べる等、一般的能力、設計能力、管理能力において、十分なものがあります。

 

しかも、私の世代の85%は総合職であるだけでなく管理職に就いています。

 

私の能力からすれば、管理職に値する要件を備えており、少なくとも総合職には値します。

 

私と総合職との間には月額で約10万円の給与の差額が生じており、このような差別的取扱いは法に照らし合わせて許されることではありません。

 

■暫定給について

T社における一般職の基本給は、年令給及び資格給から構成されていましたが、T社な平成12年4月に給与制度を改定し、資格給の級職・号俸を廃止して、初期基本給と上限基本給を定め、上限基本給と従前の基本給との差額を暫定給と名づけて、給与をカットしやすくしました。

 

私の暫定給月額7,650円は、平成15年4月から支給されなくなりましたが、暫定給カットの対象者は50歳以上が多く、差別です。

 

このような取扱の根拠として、私も加入している社員組合との労働協約を挙げていますが、この労働協約は組合員の一部の者に著しい不利益をもたらし、組合員間に実質的不平等を生じさせ、組合員の労働組合及び団体交渉への合理的期待に著しく反するため、無効です。

 

■昇給について

私は、通常であれば毎年3,000円昇給すべきであるところ、平成12年4月以降昇給がなくなり、逆に平成12年4月以降は月額3,000円、平成14年4月以降は6,000円、平成15年4月以降は8,200円の減額となっています。

 

また、私は会社から不当な低査定を受けています。

 

会社が採用する成果主義においては、賃金が職務、役割、職種に即しており、人事考課と賃金・処遇の決定が成果・能力に照らして公正でなければならず、評価方法及び評価結果が労働者にフィードバックされる必要があり、労働者の職務選択権の保証も重要であるところ、私には会社からのフィードバックや適性・キャリアに見合った職務を与えられていないので、このような人事考課は権利の濫用となります。

 

 

上記Aさんの主張に対して、T社は、総合職と実務職とは労働契約の基本的内容が異なり、両者の資格・給与制度に差異があることは契約自由の範疇として当然に認められるものと反論しています。

また、新制度の導入に係る取り扱いに関しては、社員組合と十分に協議を重ねたうえで労働協約を締結しており、特定の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたものではなく、規範的効力を有し、Aさんにも当然適用されるとしています。

 

 

さて、この訴えの結末は...

 

会社側の勝ち:職掌の相違による待遇の差は問題なく、手続も妥当

 

【主旨】

 総合職と実務職では労働契約の基本的内容が異なっており、資格・給与制度に差異があるとしても、違法ということはできない

 T社においては、以下のように区分されています。

 【総合職】

既存の全ての業務のみならず、新規に発生する課題又は開発する業務を含め、広範囲の業務に対応すべく義務づけられ、このため社命により国内各地はもとより、海外への異動が前提とされる社員であって、現在及び将来にわたり通常の会社業務はもとより管理・指導もしくは高度な専門業務を担当することを前提として職務を遂行する社員をいう。

 

【実務職】

各本・支店を単位として遂行される通常の会社業務の範囲内において、本人の能力に適すると判断された職務を概ね一貫して担当すべく義務づけられ、このため本・支店をまたがる異動は原則として行われず、本人が入社した当該本・支店の管轄範囲内においてその職務を担当する社員をいう。

 

なお、実務職から総合職へのコース変更の制度もある。

 

このように、総合職と実務職は、職域、期待される能力、責任の軽重、配転の範囲といった労働契約の基本的内容が異なっており、実務職から総合職へのコース変更の制度もある以上、両者の資格・給与制度に差異があるとしても、違法ということはできない。

 

そしてAさんは、自分が実際担当した業務が総合職と同じであると主張するが、具体的な職務を指摘していない上、入社以来の職務が全て総合職の社員と同様であると主張しているわけではないので、総合職と同一賃金を要求するには不十分である。

 

暫定給の廃止や減給については正当な理由が存在し、その根拠となる労働協約も有効である

 T社と社員組合は、調査研究を行った上、社員への広報、懇談会、職場会、臨時大会等の議論を経て、平成12年4月1日に従前の資格・給与制度を改めました。

 

新制度導入の目的は、従来の年功序列的処遇から競争力重視の業績貢献度に応じたメリハリのある処遇への転換を図り、よりチャレンジャブルな業績達成意欲の醸成を実現することにある。

 

その内容は、階層をシンプルにした上で、年令給を廃止し、能力レベルに応じた実績を適切に評価し、昇給額に反映するというものである。

 

Aさんが問題とする暫定給の廃止や、通常昇給がなく、かえって査定により基本給が減額されていることには、いずれも正当な理由があるというべきである。

 

そして、T社と社員組合との間で締結された労働協約は、社員組合内での十分な検討や複数回に及ぶAさんとの協議といった真剣かつ公正な取組を経て合意されたものであり、特段の不合理性がない以上有効であり組合員であるAさんを拘束するというべきである。

 

なお、この労働協約が、特定の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたものとは認められず、他に特段の不合理性はないというべきであるから、この労働協約は有効であり、Aさんはこれらの拘束を受けるものである。

 

(参考判例)

竹中工務店(賃金差別等)事件