就業規則の裏付けのない解雇

 

就業規則は周知させていなかったが、懲戒解雇処分にした。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯

Dさんは、設計実務担当者としてF社に採用されました。

 

入社後は、Tゴム社から請け負った、焼却炉の排ガス処理装置の詳細設計についての業務を担当することになりました。

 

ところがTゴム社の担当者から、Tゴム社が指示する要領で図面が作成されていない等といったクレームが出るようになります。

 

F社はやむを得ず納期の延期を要請し、別途図面作成の応援者を派遣することにして、Dさんにその応援者の指摘に従うよう指示したところDさんは「そんなら俺をクビにしたらええやないか」等と言い、勝手に帰宅してしまいました。

 

F社はその後Dさんと話し合い、Dさんが別の事業に従事するということでお互い納得・合意しました。

 

ところがDさんは、別の事業でも顧客の要求や指示内容、工程を無視して勝手に業務を遂行し、またサボタージュともとれる姿勢を見せ始めたため、F社がこれを指摘すると、前回同様「そんな仕事はしない」とか「クビにせえ」といった態度を示し始めました。

 

また、遅刻出勤が多く、朝礼に出席しない、その他服務規律に違反する行動も取るようになりました。

 

F社はその後たびたびDさんに注意を与えましたが、Dさんの言動は改まりません。

 

そのためF社は、平成6年6月15日にDさんを懲戒解雇しました。その理由は、就業規則第5条(禁止行為)3号、5号、8号、9号違反により、第28条(懲戒解雇)6号、7号に該当するというものです。

 

(注)就業規則第5条(禁止行為)

3号「事業場、職場の名誉、信用を傷つけるおそれのある行為」

5号「顧客信用を害する行為をすること」8号「職務上の権限を越え、またはこれを乱用して専断的な行為をすること」

9号「事業場の内外を問わず、従業員としての体面を傷つける行為をすること」

就業規則第28条(懲戒解雇)

6号「故意または重大な過失により顧客信用を害して会社、事業場に損害を与えたとき」

7号「所属長の業務命令に正当な理由なく反抗し、職場の秩序を乱したとき」

 

F社は、昭和61年8月1日、労働者代表の同意を得た上で、同日から実施する就業規則(以下「旧規則」という)を作成し、同年10月30日に大阪西労働基準監督署に届け出ていました。旧規則には懲戒事由を定め、所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨が定めてあります。

 

ただ、Dさんが勤務していた事業場は、平成4年4月に開設されたため、就業規則が備えられていませんでした。

 

F社は、平成6年4月1日から変更した就業規則を実施することとし、その変更後の就業規則(以下「新規則」という)について、6月2日に労働者代表の同意を得た上で、6月8日に大阪西労働基準監督署に届け出ました。

 

上記の条文は新規則のものです。

 

Dさんは、平成6年6月9日までは、同事業場にいかなる就業規則も存在しておらず、Dさんの平成5年9月から平成6年5月30日までの行為に対し、新規則を遡及適用し懲戒解雇することは許されないと主張して、F社を訴えました。

 

 

さて、この訴えの結末は...

 

労働者側の勝ち:懲戒を行うことはできない

 

【主 旨】

新規則を適用することはできない

 F社が新規則について労働者代表の同意を得たのは平成6年6月2日であり、それまでに新規則がF社の労働者に周知されていたと認めるべき証拠はないので、新規則を適用することはできない。

 

就業規則は、労働者に周知されていなければ拘束力を有しない

 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことが必要です。そして、就業規則が法的規範としての性質を有し拘束力を持つためには、就業規則の内容を、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることが必要とされています。

 

(参考判例)

フジ興産事件