守秘義務

 

業務上知り得た情報を勝手にホームページに公開したので、懲戒処分とした

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯 

■ 労働者Aの言い分

 私Aは、大学を卒業してB新聞社に入社し、某支社編集部に配属となりました。

 

希望通りの進路となったわけですが、実際に報道現場で活動していくうちに、記者クラブ制度や業界の慣習、非効率な労働実態に疑問を持つようになり、何よりも関係者との癒着及びそれによって記事が歪められて報じられていることに憤りを感じるようになりました。

 

そこで私は、もともと学生時代からホームページを開設し、個人的な文章を公開していたものですから、"新人記者の現場から"というコーナーを作り、記者として活動しながら感じた疑問に対する批判文章を公開するようになりました。

 

■ 上司のC編集長の言い分

 Aがホームページに載せていた情報には、取材源の秘匿に反する部分や、取材過程を公開している部分、記者の倫理や会社の編集方針に反している部分、会社の機密を洩らしている部分がありましたので、至急ホームページを閉鎖するよう命令しました。

 

■ 労働者Aの言い分

 私は、何が良くて何が悪いのか、ホームページに関する社内基準を作成してもらうことと交換条件に、いったんホームページを閉鎖しました。

 

ところが、それからいつまで経っても会社が社内基準を作成してくれないので、会社の怠慢な態度に憤慨し、1年後くらいに再びホームページを公開しました。もちろん、会社の許可は取っていません。

 

■ 上司のC編集長の言い分

 何とAは、以前私が問題があると指摘した文章を修正もせず、そのまま掲載したのみならず、取材相手の実名や具体的な役職名を記載しての取材過程を公表している文章や社内の編集過程、人事データづくりの経過を明らかにした文章をも載せていました。

 

しかもそこには、私のことを「悪魔」と呼称して批判したり、「捏造記事」と題した文章までありました。

 

すぐに問題点を指摘したうえで、ホームページの閉鎖を求めたのですが、Aは閉鎖をせず、順次文章中の企業名や個人名を、伏せ字にしたり、削除したりするのにとどめました。

 

■ B社の言い分

 Aの行為は社の信用を大きく傷つけるものであり、依願退職を勧告しました。

 

しかしAが応じないので、常務会において懲戒処分に関する審議を行い、Aを14日間の出勤停止処分に、C編集部長を譴責処分にすることを決定しました。

 

■ 労働者Aの言い分

 会社のやり口には納得がいきません。

 

懲戒処分について、無効の訴えを起こします!

 

 

さて、この訴えの結末は...

 

会社側の勝ち:従業員の勝手な判断による公開は許されない

 

【主 旨】

B社の従業員として行った取材について、Aが個人的に公表することはできない

仮にAが指摘するように、取材源等を秘匿することがマスコミの悪しき慣行であるとしても、取材源や具体的な取材の過程を公表することにより、実際問題として今後の円滑な取材活動が妨げられる等、B社の業務に支障が出るおそれがある以上、その公表はB社の判断に委ねられるべきである。

 

Aが一般論としてB社の悪しき慣習を批判することは言論の自由として許されるとしても、AがB社の従業員として行った具体的な取材の過程や取材源を、B社の了解もなく個人的に公表することが許されないことは明らかであって、それがB社の経営、編集方針でもあることは、BがC編集部長から文章の問題点を指摘され、ホームページの閉鎖を求められたことからも容易に認識できたはず。

 

Aを懲戒処分とする十分な理由がある

 C編集部長によるホームページの全面的な閉鎖が行き過ぎた指示であったとしても、少なくとも問題点を指摘された文章を削除するなどの措置は容易に可能であった。

 

それにもかかわらず、B社の了解を得ないままホームページの公開を再開し、問題点を指摘された文章をそのまま再掲したばかりか、取材の過程や取材源を公表する記述を含んだ文章を掲載したのだから、就業規則に従業員が遵守すべきことと規定されている「会社の経営方針あるいは編集方針を害するような行為をしないこと」に故意に違反したとしか言いようがない。

 

また、C編集部長を「悪魔」と批判したり、B社の記事を「捏造」としたくだりは、B社のマスコミとしての信用を傷つけるものであって、就業規則上の「会社の信用を傷つけるような行為をしないこと」という規定に違反している。

 

これらの内容に鑑みれば、14日間の出勤停止処分は相当である。

 

(参考判例)

日本経済新聞社(記者HP)事件