所持品検査

 

顧客の物品が紛失したので、所持品検査を行った。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯 

Aさんは物流会社であるH社に勤めています。

 

この日は責任者として下請業者B、CおよびDとともにS宅の引越作業に従事していました。

 

ところが午後4時頃、依頼主のSさんより営業所に「財布がなくなったから至急調べて欲しい」との電話がありました。電話を受けた営業所長のXさんは「従業員が帰ったら、確認して連絡します」と答えました。

 

Xさんは、会社の信用保持を図り、顧客を納得させるために所持品検査を行なうことに決め、第三者に見られないよう守衛室のブラインドを降ろしておきました。

 

Xさんは、まず帰ってきた下請業者BおよびCを守衛室に呼び、お客さんの貴重品がなくなったことを説明し、作業状況を尋ね、ポケットの中身を机の上に提示するよう指示しました。両名は指示に従い、ポケットの中身を机の上に提示しました。

 

その後、Aさんと下請業者Dさんが営業所に戻ってきました。両名はXさんの指示に従って、守衛室に入りました。その時点ではCさんが守衛室に残っており、Cさんの所持品が机の上に並べられていました。

 

Xさんは、Aさんにお客さんの財布がなくなったことを説明し、作業状況を尋ねました。Xさんは、AさんもしくはDさんがなくなった財布の近くで作業を行なった可能性があると考え、所持品検査と身体検査を実施することを決意し、まず、目の前に立っていたAさんに対し、ポケットの中身を全部出すように指示しました。

 

机の上に提示しました。XさんはAさんに対してこれで全部かと尋ね、さらに手でAさんの身体を着衣の上から、胸から腹部、腰にかけて触って、財布がないかを調べたが、腰部に固いものがあったので、これは何かと尋ねました。Aさんは以前から腰痛で、腰痛防止ベルトをしているので、その旨答えました。

 

その後Xさんは、残りのDさんの所持品検査と身体検査をし、またゴミ捨て場や車の中など、隅から隅まで探しましたが、結局財布は出てきませんでした。

 

翌日Aさんは、労働組合に前日の出来事について相談し、営業所長のXさんから窃盗犯人扱いされて、自己の名誉、信用を害されたと考え、この疑いを晴らすためにお客さんのSさんに電話をしたところ、Sさんの所から財布が発見されたということがわかりました。

 

そこでAさんは、営業所に出勤したうえXさんと面会し、Sさんのところから財布がみつかったことを告げ、「最初から泥棒扱いしやがって!」等と言って怒りをぶつけました。

 

これに対してXさんは、「あって良かったね。お客さんが自分で管理してくれればこのようなことはなかったのにね。後味の悪い思いをさせて悪かった。胸のうちにしまってくれ。」といいましたが、Aさんは「自分としては、組合にも話してあり絶対に許せない。」と答え、訴えることにしました。

 

 会社側の主張

 当社の就業規則には、「保安員が必要ありと認めた場合には、その求めにより、社員はその所持品の検査を拒むことができない。」と定められています。今回の所持品検査は、この条項に準拠したものです。

 

引越作業中に物品紛失というトラブルがあった場合、作業所の責任者は、事実関係を確認し、会社の落ち度がなければその旨を顧客に説明して納得させ、作業員の身の潔白を証明し、会社の信用を図らなければなりません。

 

営業所長のXさんは、作業員の身の潔白証明と会社の信用保持の目的で今回の所持品検査等を行なったわけですから、これには合理的理由があり、違法とは言えません。

 

 

さて、この訴えの結末は...

 

労働者側の勝ち:当該所持品検査等は違法

 

【主 旨】 

所持品検査には就業規則等の根拠と、一般的に妥当な方法で行なわれること等が必要

 所持品検査は、常に従業員の基本的人権に密接に関わる事柄のため、その実施に当っては常に被検査者の名誉、信用等の人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえそれが企業にとって必要かつ効果的な措置であるにしても、当然に適法とみなされるわけではない。

 

所持品検査が適法といえるためには、少なくともこれを許容する就業規則その他明示の根拠に基づいて行なわれることを要するほか、さらにこれを一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。

 

会社側が主張する就業規則の一文は、もっぱら危険物を社内や坑内へ持ち込まれることを禁じる趣旨の規定に止まるものであって、このケースのように、引越作業員の所持品を検査する権限を営業所長に認める趣旨の規定ではない。

 

したがって、Xさんの行なった身体検査及び所持品検査は、すでにこの点で違法であると言わざるを得ない。

 

Xさんの行為は、社会的信用やプライバシーを侵害している

 本件の身体検査や所持品検査については、客観的に見て、Aさんがお客さんの財布を盗んだという疑いを持たれたという印象を与える。

 

Aさんが所持品検査等を受けた事実は、下請業者などに知られているわけだから、これによりAさんの社会的評価が低下され、その名誉や同僚らに対する信用が侵害されたことは明らかである。

 

また、この身体検査により、Aさんが腰痛防止ベルトをしていることが暴露されたものであって、これによりAさんの私生活上の秘密保有の利益、いわゆるプライバシーが侵害されたということができる。

 

(参考判例)

日立物流事件