サービス残業の代わりに商品を提供

 

マネージャーが社内ルールに背き、サービス残業との引き替えに従食を無料で食べさせた。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯 

N社は飲食店経営を主たる目的としており、本社を東京に置き、多数のブランドで店舗の全国展開をしている会社です。

 

N社の人事制度は、以下のように定められています。

 《従業員の資格》

一般職

 ↓ 

主任職

 ↓

店長B職

 ↓ 

店長A職

 ↓

マネージャーB職

 ↓ 

マネージャーA職

 ↓

課長B職

 ↓ 

課長A職

 ↓ 

課長S職

 ↓

部長B職

 ↓ 

部長A職

 ↓

部長S職


 

《従業員の賃金》

本給(基本給、職務給)及び諸手当(職務手当、時間外勤務手当等)から構成されており、基本給は、全従業員について一律月額12万円とし、職務給及び職務手当は職位により決定されます。

 

《職務内容》

【店長】
店舗の責任者として店舗を管理・運営し、店舗従業員を直接指揮・監督すること。店舗のすべての資産(建物、設備、備品、商品)、原材料、消耗品については正しく保全し、損害、ロス退治のために具体的に行動することが重要な内容となっており、店舗内の原材料を無駄に使用することは許されず、たとえ店舗従業員に対するいわゆる賄食(従食)についても、顧客に対する価格の40%を店舗従業員が支払うという社内ルールを、店舗従業員が遵守しているか管理・監督することも求められている。

 

【マネージャー】店長の上位職位者として、管轄営業部内の業務の執行を統括し、店長職の業務に対し助言・協力し、店長以下の店舗従業員を指揮・監督すること。

 

 また、N社の就業規則には、以下のように規定されています。

 第12条 会社は、業務の都合により必要がある場合には、社員に転勤、(中略)あるいは出向、派遣を命ずることがある。 

第13条 社員が異動を命じられたときは、正当な理由がなければこれを拒むことはできない。

第32条 社員は、職務遂行上において、再三の指示・命令にもかかわらず改善されず、会社から要求された職務遂行が行われない場合、降格することがある。

第69条(7) 懲戒処分としての降格を行う場合、譴責の上、会社が定める期間職位を下げる。

 

Aさんは、昭和61年3月に育成調理師学校を卒業し、調理師免許を取得し、他社での経験を経て、平成9年3月にN社に入社しました。

 

大阪府内の店舗に勤務し、入社当初は主任職でしたが、同年6月には店長B職、平成10年10月には店長A職、平成12年4月にはマネージャーB職、平成13年10月にマネージャーA職へと昇格しました。

 

Aさんは、マネージャーとなった平成12年4月以降、4店舗を担当統括することになりました。

 

 平成13年11月、N社ではマネージャー以上を対象としてマニュアルテストが実施されましたが、平均点が90点以上であるにもかかわらず、Aさんは52点しか取ることができず、65人中64位の成績でした。

 

そのためN社は、Aさんに対し、次回までに満点の成績を取れるべく努力するよう指示した上、訓戒処分としました。

 

 N社においては、人時売上高と呼んでいる従業員一人当たりの1時間の売上高の目標を設定し、毎月の人時売上高を公表する等してその向上を奨励してきたため、期末賞与についても、売上の前年比や従業員の労働時間が標準労働時間以下であるかに重点を置いて、支給額を決定しています。

 

その際、これらの目標を達成するには、社員・アルバイトの能力アップや店舗の運営やシステムの改善により行い、サービス残業を行って人時売上高の向上を図るようなことのないよう各店舗の指示をしており、平成12年2月からは本部で基本シフト表を決定し、各店舗に対しそれに従ったシフトを組んで従業員の労働時間を管理するように指示するとともに、各店舗に作成したシフト表を提出させ、従業員のシフトが不自然なものになっていないかどうかチェックすることによって、各店舗における従業員の労働時間を把握し、管理しています。

 

 平成14年4月Aさんは、18歳未満のアルバイトを夜0時まで働かせたことを会社から指摘され、始末書を提出しました。

 

 また、平成14年4月に、N社が各店舗の原価の調査に入ったところ、Aさん担当の4店舗の原価率が異常に安定して不自然であることに気づきました。

 

そのためN社が徹底して調査したところ、Aさんの指示で、各店舗の店長が原価率を操作していたことが判明しました。

 

そこでN社は平成14年6月、AさんをマネージャーA職からマネージャーB職へ降格と東京への転勤を命じました。

 

Aさんは、長女の心臓病のことや居住している父親名義の住宅ローンのことなどを訴えて、東京への配転を撤回してもらえないか、会社に相談しました。

 

その結果、降格は予定通り行なわれましたが、配転は大阪府内の工場等3施設の担当になりました。

 

 平成14年6月、マネージャー以上を対象としたレシピテストが実施されましたが、Aさんの成績は平均が91.7点のところ84点で、66人中52位でした。

 

 また、N社が売上伝票を提出させるなどして従業員の食事利用頻度を調査した結果、Aさんの担当4店舗の従業員全員が、Aさんの指示のもと無銭飲食やサービス残業をしていたことが判明しました。

 

N社はこの件をAさんに問いただしたところ、自分が指示したということは否定しましたが、過去にお金に困っている従業員にオーダーミスの商品を食べさせたこと、無銭飲食をしていそうな従業員に気づきながら黙認したことがあったこと、所定労働時間内に自分の担当する業務が終わらなければ残って仕事をしてから帰宅することも許容し、そのような従業員に対して従食代は支払わなくてもいいと言ったことがあることを認めました。

 

N社は、平成14年9月、Aさんを監督不行届きのため店長A職に降格しました。

 

 Aさんは以下の通り主張し、降格処分は人事権の濫用であり、無効だとして会社を訴えることにしました。

・明確な判断基準がないのに、降格処分を下すことはできない。

・会社の意を受けた社員が、口裏合わせをして、私の指示によりサービス残業と引き替えに従食を食べさせていたと言っているのであり、私をおとしめるための方策である。

・サービス残業及び無銭飲食という行為について再三の指示命令を行ってもなお改善されないという場合でないと、降格処分を行うことはできない。

 

 

さて、この訴えの結末は...

 

会社側の勝ち:降格は妥当であり減給もやむをえない

 

【主 旨】 

規定上降格は可能であり、それに伴う減給も可能

 N社においては、平成12年4月から能力主義・成果主義賃金体系がとられており、従業員は会社から基本給として一律12万円が支給されるほかは、職務遂行能力に応じて職位が決定され、職位に応じた職務給と職務手当が支給されることになっている。

 

そして、その職位は社員の経験、勤務成績等、職務遂行能力を要素に決定することとされているほかは、特段詳細な資格要件が規定されているわけではない。

 

また、就業規則第32条に降格についての言及がなされている。

 

以上によれば、就業規則第32条の要件「職務遂行上において、再三の指示・命令にもかかわらず改善されず、会社から要求された職務遂行が行われない場合」を満たせば、社員を降格することができ、それに伴い社員の職務給及び職務手当を減額することができると解釈できる。

 

サービス残業との引き替えに従食を無料で食べさせるという行為に、Aさんが関与していたと言わざるを得ない

 Aさんは、会社の意を受けた店長らが主導して口裏あわせをしたと主張しているが、憶測の域を出ておらず、それを裏付ける客観的証拠もない。

 

確かにAさんは、無銭飲食及びサービス残業を支持したことは一貫して否認しているが、そもそもAさんはいずれかの店舗のシフトに入り、他の従業員と同様の業務をこなしながら管理・監督していたのであるから、多数の従業員が長期に渡って行っていたサービス残業や無銭飲食に気づかなかったというのは不自然である。

 

また、自分の勤務時間内に担当している業務が終わらなければ、残って仕事をしてから帰宅することを許容し、そのような従業員に対して、飲食代は払わなくてもいいと言ったことを認めている。

 

さらに、Aさん自身、自分の勤務時間内に仕事が終わらなかった場合残って仕事をする者を評価するということも社員に述べていたことや、社員が残業せざるを得ないシフトを組んだことがあり、割り当てられた勤務時間終了時に仕事を終えていない社員に対して強く帰宅するように指示することもなく、しかも社員が残業終了後にタイムカードを正しく打刻しているか否かについて何らチェックをしていなかったことを認めている。

 

以上を総合すると、Aさんの主張を採用することはできない。

 

Aさんの行為は、「職務遂行上において、再三の指示・命令にもかかわらず改善されず、会社から要求された職務遂行が行われない場合」に該当する

 企業が、労働者の適性や能力を正当に評価して、企業組織の中で見合った職務や職位に労働者を配置する人事権を持っているということは、言うまでもない。

 

まして、N社では能力主義・成果主義賃金体系がとられ、職位は社員の経験、勤務成績等、職務遂行能力を要素に決定されていること、また就業規則の規定も、一連の職務遂行能力に改善が見られない社員を降格すると解釈されることからすれば、降格の理由となった職務不履行とまるっきり同一の職務について、会社から再三指示・命令を受けていなければ降格処分を行うことができないと厳格に解釈しなければならないとは言えず、その前後において同様の種類又は性質の指示・命令を再三受けたにもかかわらず改善が認められない場合には、降格することができるというべきである。

 

Aさんは、管理職として、従業員に対し法令・社内ルールを遵守するよう指導・監督するのが職務であるのに、

 1.マニュアルテストにおいて著しく低い点を取り、訓戒処分を受けた

2.就業規則の理解が不十分であることから、18才未満のアルバイトを夜0時まで働かせた

3.レシピテストにおいても低い成績に止まる

 

といったように、法令や社内ルールにつき、指導を受けながらその改善が認められないのであるから、就業規則第32条の規定「社員は、職務遂行上において、再三の指示・命令にもかかわらず改善されず、会社から要求された職務遂行が行われない場合、降格することがある。」に該当する。

 

(参考判例)

日本レストランシステム事件