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産前産後休業と賞与


産前産後の休業と育児短時間勤務を取得した社員に、賞与を支給しなかった。

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

事件の経緯

さんは、学校法人T学園に正社員として勤めています。
Aさんには子供が生まれ、以下の通り休業や勤務短縮の措置を受けました。

H6.7.8 出産

H6.7.9~H6.9.2 8週間の産後休業

H6.10.6~H7.7.8 育児短時間勤務制度適用(1時間15分短縮)

学園の就業規則等には、次のように規定されています。

就業規則

第45条 職員が次の各号の一に該当するときは、特別休暇を受けることができる。

1) 本人が結婚するとき  5日

2) 子女または兄弟が結婚するとき  2日

3) 配偶者が出産したとき  5日

4) 父母、配偶者および子が死亡したとき  5日

5) 祖父母、兄弟および配偶者の父母が死亡したとき  3日

6) 亡父母、亡夫妻、亡子の法要の場合  1日

7) 職員が出産するとき  産前6週間産後8週間

8) 生理日の就業が著しく困難なとき  就業が困難な期間

第47条 第45条1号から6号・8号の特別休暇については通常の賃金を支払い、第7号の特別休暇については無給とする。

給与規程

第19条 学園は毎年、6月及び12月に学園の業績を考慮した上、職員に対し勤務成績などに応じて賞与を支給することがある。

2. 賞与の支給額はつぎの各号とする。

1) 6月の賞与は、前年11月16日からその年の5月15日まで、また12月の賞与は、その年の5月16日から11月15日までの期間を対象とする。

2) 前号の期間を満たした者であっても、支給日現在も継続して勤務し、将来とも勤務する意志を有すると認められる者で、かつ出勤率が90%以上の者に支給する。

3) 支給日、支給の詳細については、その都度回覧にて知らせる。

育児休職規程

第5条 休職期間は子が満1歳の誕生日の前日までとする。

第9条 育児休職中の賃金は支給しない。

第11条 休職期間中の日数は欠勤として取扱い減給とし、給与規程に準ずるものとする。

第13条 満1歳に満たない子供を養育する職員が育児休職を申し出なく、勤務時間の短縮を申し出た場合には9時00分から16時30分までの勤務とし、期間は第5条に定めるものとする。ただし、短縮した分の時間相当を給与から控除するものとする。また時間外勤務は課さない。

そして、平成6年11月29日付で、以下の文書が配布されました。

平成6年度期末賞与について

【支給日】
平成16年12月16日

【支給対象者】
平成6年9月15日以前に本採用になった職員で、同年12月17日現在も継続して常勤の本採用職員として勤務し、今後も引き続き勤務する意志を有すると認められる者、及び出勤率(出勤した日数÷出勤すべき日数)が90%以上

【支給計算基準】
(基本給×4.0)+職階手当+(家族手当×2)-(基本給÷20)× 欠勤日数

【備 考】
1) 上記の欠勤日数は、平成6年5月16日より同年11月15日までの期間で算出する。

2) 遅刻、早退も欠勤日数に加算する。

3) 就業規則第45条第7号(産前産後休業)、第8号(生理休暇)の特別休暇については欠勤日数に加算する。

    ↓

上記算定期間中の日数は125日であり、13日以上欠勤すると90%の出勤率は満たせなくなり、賞与が支給されないことになります。

8週間の産後休業を取得した場合は、40日分が欠勤扱いされることになりますから、Aさんは自動的に支給対象から除外されてしまいます。

実際にAさんに対しては、賞与が支給されませんでした。

また、平成7年6月8日付で、以下の文書が配布されました。

平成7年度夏季賞与の支給について

【支給日】
平成16年6月29日

【支給対象者】
平成7年5月15日以前に本採用になった職員で、同年6月29日現在も継続して常勤の本採用職員として勤務し、今後も引き続き勤務する意志を有すると認められる者、及び出勤率(出勤した日数÷出勤すべき日数)が90%以上

【支給計算基準】
(基本給×3.0)+職階手当+(家族手当×2)-(基本給÷20)× 欠勤日数

【備 考】
1) 上記の欠勤日数は、平成6年11月16日より平成7年5月15日までの期間で算出する。

2) 遅刻、早退は3回で欠勤1回とし、端数については2回は欠勤1回、1回は欠勤0.5日とする。

3) 就業規則第45条第7号(産前産後休業)、第8号(生理休暇)の特別休暇については欠勤日数に加算する。

4) 育児休職規程第13条の勤務時間の短縮を受けた場合には、短縮した分の総時間数を7時間45分で除して欠勤日数に加算する。

    ↓

1日について1時間15分の勤務時間短縮措置を受けると、1日当たり約16%の割合で欠勤している計算になるので、それだけで支給対象から除外されることになります。

やはりAさんに対しては、賞与が支給されませんでした。

T学園においては、年収に占める賞与の割合が大きく、Aさんの場合は今まで年収の約27%から31%を賞与が占めていました。

この仕打ちに納得がいかず、Aさんは学園を訴えることにしました!

さて、この訴えの結末は・・・

労働者側の勝ち:休業取得即賞与不支給は、公序に反し無効

【主旨】

判断の基準は、法で定められた労働者の権利を阻害しているかどうか

従業員の出勤率の低下防止等の観点から、出勤率の低い者につき、ある種の経済的利益を得られないこととする制度を設けることは、一応の経済的合理性を有するものである。

となれば、法が労働者に保障している、産前産後休業や育児のための勤務時間短縮措置を受ける権利を、この制度が実質的に阻害していると認められる場合に限り、公序に反するものとして無効となると解するのが相当である。

産前産後休業等の取得の権利を失わせるものであり、公序に反し無効

今件の90%条項は、賞与算定に当たり、単に労務が提供されなかった産前産後休業期間及び勤務時間短縮措置による短縮時間分に対応する賞与の減額を行うというにとどまるものではなく、産前産後休業を取得するなどした従業員に対し、産前産後休業期間等を欠勤日数に含めて算定した出勤率が90%未満の場合には、一切賞与が支給されないという不利益を被らせるものである。

また、T学園においては、従業員の年間総収入額に占める賞与の比重は大きく、出勤が90%に満たないことにより賞与が支給されない者の受ける経済的不利益は相当大きなものである。

そして、ここで基準とされている90%という出勤率の数値からみて、従業員が産前産後休業を取得し、または勤務時間短縮措置を受けた場合には、それだけでひっかかってしまい、賞与の支給が受けられなくなってしまう可能性が非常に高いといえる。

であれば、この制度の下では、勤務を継続しながら出産し、または育児のための勤務時間短縮措置を請求することを差し控えようとする機運を生じさせるものと考えられ、労働基準法等が上記権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものというべきであるから、公序に反し無効であるというべきである。

不就労部分を減額することは差し支えない

産前産後休業を取得し、または育児のための勤務時間短縮措置を受けた労働者は、法律上上記不就労期間に対応する賃金請求権を有しておらず、T学園の就業規則等においても上記不就労期間は無給とされている。

そのため、産前産後休業の日数や育児のための勤務時間短縮措置による短縮時間分について減額の対象とすることは、ノーワーク・ノーペイの原則からいっても、妥当というべきものである。

(参考判例)

東朋学園事件

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