内規違反による営業

 

会社の「手段を選ばず売上をあげろ」という指示の下、内規に背き、入金前に商品を引き渡したところ、代金を回収できなくなった。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯 

G社は、全国に約120ある直営店を通じて、中古車販売を手がけている会社です。

Aさんは、そのG社の西日本Aブロックに属する直営店で、店長として勤務しています。

 

ところがAさんは、G社に多大な損害を与えたという理由で懲戒解雇されました。

 

具体的には・・・

Aさんは、平成13年1月から2月末ごろにかけて、Bさんに対して15台の中古自動車を、代金の受領を受けないまま引き渡しました。

Bさんは、引き渡しを受けた車両を他の中古車販売業者に売り渡しましたが、G社に対してこの車両の代金を全く支払いませんでした。

 

その内情は次のようなものでした。

Bさんは、元々G社の社員であり、Aさんと同じブロックの店長をしていましていました。

Aさんは、Bさんと店長会議等を通じて親しくなり、先輩格でもあることから仕事上の相談にも乗ってもらう等、Bさんに信頼感を抱いていました。

そのBさんですが、平成12年9月頃、個人的な借金の返済に窮したため、勤めているG社から正規の手続を取らないで中古車を購入し、換金し、さらにその車両の代金を返済するため、G社から別の中古車を購入し、換金しました。

 

その後、Bさんは自店の営業成績が低迷していることから、会社より店長降格を示唆されたため、平成12年10月末日付でG社を自主退職し、その際購入したまま納金していなかった車両の代金を、平成12年11月末までに入金することを会社に約束しました。

 

そこで利用されたのが、Aさんです。

 

Bさんは、Aさんに「個人ユーザーが特定の車種の車両を探しているので、G社から仕入れて販売したい。代金は、Aさんが仕入れる価格に20~30万円上乗せした価格で構わない。パーツを装備して付加価値をつけることによって、利益を出す。代金は引き渡し1ヵ月後に支払うから。」と持ちかけました。

 

Aさんはこれを信じ、平成12年11月に2台、同年12月に3台、平成13年1月に13台、同年2月に9台の中古車を、車両の登録名義変更に必要な書類ともに、Bさんに引き渡しました。

 

Bさんは、このようにしてAさんから中古車の引き渡しを受け、その車両を直ちに中古車買取業者に販売して換金し、その代金をもって自分の借金の返済や遊興費に充て、さらに車両代金支払いのため新たにAさんから車両の引き渡しを受けるという自転車操業を繰り返しました。

 

当初は車両引き渡しから1ヶ月後に代金を支払っていました。

 

しかし、平成13年2月末、1月分の代金の支払いが滞りました。

 

そこでAさんは、Bさんに対して入金を督促したところ、一部の入金はありましたが、そのうち連絡が取れなくなり、結局1月中に引き渡したうちの6台分と、2月に引き渡した9台、合計15台分の代金が未回収となりました。

平成13年3月頃、G社でもこの取引に対して不審を抱き、Aさんに顧客との売買契約書を本部に提出するよう指示しました。

 

Aさんは、Bさんとの取引が増えた平成13年1月以降は売買契約書を作成していなかったため、虚偽の契約書を作成して隠し通そうと画策しましたが、ブロック長が来店して調査した結果、在庫として存在しないことが発覚しました。

 

Aさんは、警察に詐欺の被害届を提出しました。

 

なお、G社において、各店舗が顧客に中古車を販売する場合、売買代金を全額回収した後に、ローンの場合はローン会社の承認通知後に、納車しなければならないという会社の内規は、再三にわたって通達されており、Aさんもこのことについては重々承知していました。

 

さて、Aさんには納得できません。

会社と争うことになりました。

 

 

双方の主張は、次の通りです。

G社の主張

 Aさんは、店長であることを利用して、実際の契約も代金の受領もないのに、Bさんと共謀して詐取を行いました。

 

仮にそうでないとしても、当社においては、中古車を販売して納車及び登録名義の移転に必要な書類を交付する際には、実際の顧客と契約を交わして代金の入金を確認してから行う内規となっています。

Aさんは、店長としてこれをスタッフに周知徹底する立場であるにもかかわらず、自らこの内規に反し、Bさんの指示のまま車両を引き渡していたのであり、少なくてもこの件については重過失があることは明白です。

 

なお損害額は、車両の代金が全く支払われていないため、車両の仕切り価格相当額合計の約5,000万円となります。

 

Aさんの主張

 ・私は、会社から赤字の店舗を任されて、店長に就任しましたが、ブロック長からは手段を選ばず売上を上げるよう指示され、目標を達成するように強く求められました。私は、この指示に従い、売上増のために奔走して業績を上げました。

 

・またBさんは、私が店長に就任する前から隣接する店舗の店長だったし、自店のスタッフとも友好関係にありました。そのため、ブロック長からも、必要なときにはBさんに相談し、指導や助言を受けるよう指示され、実際にBさんは販売困難な車両の販売について協力してくれました。

 

・Bさんを介しての取引は、Bさんに車両を預け、買主が決まった段階で代金支払いと引き渡しが行われるという形式ですから、会社の内規に反するものではありません。

 

・Bさんとの取引は、当初の12台分は代金が順調に支払われました。

 

・会社の内規については、頻繁に通達が繰り返されており、社内でも徹底されていませんでした。

 

以上のように、私は会社の売上至上主義の下、自店の業績を上げるため、Bさんを信頼し、正常な取引と信じて行ったのであり、私には故意も過失もなく、会社が私に対して個人責任を追及することは信義に反し許されません。

 

 

さて、この訴えの結末は...

 

会社側の勝ち:労働者に損害賠償を請求できる(但し全額ではない)

 

【主 旨】 

Aさんに重大な過失が認められる

 G社は、Aさんは店長という立場を利用して、Bさんと共謀して詐取に及んだと主張するが、それを認めるに足る証拠はない。

 

むしろBさんが、Aさんの自分に対する信頼を逆手にとって、Aさんをだまして車両を詐取したのであって、このことに関しては、Aさんは被害者とも言える。

 

しかしながらAさんは、顧客に車両を販売する際、代金全額が入金されてから納車するという、G社における内規を承知していながら、入金が全くないにもかかわらず、短期間のうちに次々とBさんに車両を引き渡し、その結果車両15台分の損害を生じさせたのであり、Aさんが店長としての職務を遂行するにあたり、重大な過失があったということは明らかである。

 

確かにG社の各店舗には一定の売上目標が設定され、Aさんもブロック長から、手段を選ばずとにかく売上目標を達成するよう強く求められていた事実が認められる。

 

そうは言っても、「手段を選ばず」という意味が、内規に反してでもという趣旨ではないことは、内規を再三通達していたことからも明らかであり、Aさんの重過失を否定するものではない。

 

G社は、Aさんに対して損害賠償請求をできるが、使用者責任を考え合わせると、全額請求することは不可能

 会社が、業務の遂行に関してなされた社員の行動によって直接損害を被った場合、その事業の「性格」「規模」「施設の状況」「社員の業務内容」「労働条件」「勤務態度」「加害行為の態様」「加害行為の予防ないし分散」について配慮の程度等諸般の事情に鑑みて、損害の公平な分担という観点から、信義則上相当と認められる限度内においてのみ、会社は社員に対して損害の賠償を請求することができる。

 

認定事実や証拠によると、

・12台は代金が決裁され、G社はこれにより、1台につき20~30万円の利益を得ていること

 

・この事件が生じたのは、売上実績を上げたいというAさんの心情を、Bさんに利用された結果であって、Aさんが直接個人的利益を得ることを意図して行ったものではないこと

 

・Aさんが店長に就任した後、店舗の販売実績を向上させたこと

 

・ブロック長は、各店舗毎に販売目標を設定した上、各店長に対して「とにかく数字を上げろ。手段を選ぶな。」等とはっぱをかける等、売上至上主義ともいうべき指導を行っていたこと

 

・Aさんは、他の直営店が仕入れたものの買い手がつかない在庫車両の販売をノルマとして割り当てられており、Bさんとの取引を行った27台の中にはこのような車両も含まれていたこと

 

等があげられる。

 

これらの事情を総合して勘案すると、G社は信義則上、損害額の2分の1である2,500万円の限度でAさんに損害の賠償を請求することができるとするのが相当である。

 

(参考判例)

株式会社G事件