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休職と解雇


病気を理由に休職しているが、何度要求しても診断書を提出しないため解雇した。

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

事件の経緯

Aさんは、建材の製造加工を営むD社に勤務していますが、平成8年3月以降出勤率が高くない状態が続いていました。

さらに、平成12年3月下旬から、うつ状態あるいは自律神経失調症を理由とする欠勤が続きました。

その後、D社とAさんの間には、以下のようなやり取りが交わされました。

平成12年9月11日~同年11月10日D社は就業規則に則り、Aさんを長期欠勤扱いとする。

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平成12年11月11日~D社は就業規則に則り、Aさんを休職扱いとする。

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平成13年1月18日「長期欠勤・休職の期間・給与について」と題する書面を交付し、休職期間は平成12年11月11日から最大18ヶ月(平成14年5月10日まで)であると通知。

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平成14年4月12日Aさんは突然出社し、病状が回復したので職務に就く旨を述べる。D社はAさんが出社することを全く予定していなかったので、自席に待機させたが、Aさんは午前中で退社する。

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平成14年4月15日Aさんは出社したが、通院のため午後から退社すると述べたため、D社は嘱託社員の資料整理の手伝いをするよう指示。

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平成14年5月1日及び2日Aさんは出社したが、嘱託社員の指示に基づく仕事を拒否。

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平成14年5月8日Aさんは午後に出社。D社はAさんに対して、通院治療を続けているCクリニックの担当医に事情聴取を行うことの承諾を求めたが、Aさんは拒否。
そこでD社は、産業医の紹介であるEクリニックで診察を受けるように伝え、その旨記載のある書面を交付したが、Aさんはこれも拒否。

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平成14年5月16日Aさんの要望により、D社と管理職ユニオンとの間で団体交渉が行われた。管理職ユニオンの要望により、同月17日及び20日にAさんとD社の間で、具体的にどのような仕事をしたいのかについて話し合った。

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平成14年6月14日「Aさんは管理職ユニオンが紹介したFクリニックあるいはAさんが診療を受けた医師の診断書をD社に提出する。この診断書が提出され、再度団体交渉が行われるまでの間、Aさんについての休職の取扱い、賃金、通院について不利益な取扱いをしない。」という確認が、D社と管理職ユニオンの間でなされた。

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平成14年6月27日Aさんが診断書を提出しないため、D社はAさんに対し同年7月5日までに診断書を提出するように催促した。しかしAさんは提出について猶予を求めたため、D社は7月末日まで提出期限を延ばした。

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平成14年7月29日Aさんから再度提出期限の延長を求める旨の記載のある書面が提出されたので、D社は提出期限を8月20日まで延期した。

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平成14年8月20日AさんはD社に対して、G医師の「証明書」と題する書面を提出した。しかし同書面には、Aさんの就業の可否に関する記載がなかったため、D社はAさんに対し同月30日までに就業の可否についての記載のある診断書の提出を求めた。

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平成14年8月27日AさんはD社に対して「就労は可と判断する」との記載のある証明書を提出した。

しかし、D社は要望した診断書ではなかったため、証明書の作成者であるG医師に対し、同証明書の内容を確認するとともに、Aさんの復職あるいは復職後の仕事内容についての意見を聴くために面談を求めたが、G医師は守秘義務を理由としてAさんの承諾書を持参して欲しいと要望した。

そこでD社は上記要望に沿った承諾書を作成し、Aさんに対し署名押印するよう求めたが、Aさんはこれを拒否した。

やむをえずD社は、Aさんを通じてG医師に対し、Aさんの病状についての質問を文書で求めることとして、質問事項を記載した書面を作成し、これをAさんに交付しG医師に回答してもらうように要望したが、Aさんはこれも拒否した。

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平成14年9月10日Aさんの病状を確認し、復職させるための資料を収集できなかったことから、D社はAさんの病状が回復せず、復職させても就労させることはできないと判断し、就業規則に基づきAさんを解雇した。

Aさんは、「医師の証明書を提出したことにより、自分が就労できることは証明されているので、就業規則の解雇事由に該当せず、解雇は無効である。また、必要以上に病状を詮索するのはプライバシーの侵害ではないか。」と、主張しました。

さて、この訴えの結末は...

会社側の勝ち:D社の措置は社会通念上相当

【主 旨】

D社が診断書を要求するのは当然の措置

Aさんが職務復帰を希望するにあたって、復職の要件である治癒、すなわち従前の職務を通常の程度行える健康状態に復したかどうかを、D社が確認することは当然必要なことであり、Aさんの長期に渡って療養していた状況を考慮すると、D社が医師の診断書を要求することは、労使間における信義ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な措置である。

したがって、D社がAさんに対し、医師の診断あるいは医師の意見を聴取することを指示できるし、Aさんとしてもこれに応じる義務があるというべきである。

Aさんが医師の人選あるいは診断結果に不満がある場合は、これについて争うことまで否定されるものではないが、医師の診断を受けるように指示することが、直ちにプライバシーの侵害にあたるということはできない。

事情を鑑みると解雇は社会的通念上の合理性を有する

Aさんは、D社が数回にわたって診断書提出期限を延期したにもかかわらず、特に理由を説明することもなく診断書を提出せず、通院先の病院の医師でもない医師の証明書なる書面を提出したのみで、通院先の医師や証明書を作成した医師への意見聴取をも拒否し続けている。

これに対してD社は、Aさんが休職期間満了後も直ちに休職満了退職扱いとせずに、自宅待機の措置をとっていたような事情や、Aさん自身がいまだ体調がすぐれない旨述べていることを合わせて考慮すると、この解雇は社会的相当性を欠くということはできない。

また、G医師作成の「証明書」には、就労が可能である旨の記載はあるが、G医師はAさんの診察を継続して行ってきていたわけではなく、またG医師がAさんの職務をどのように理解していたか不明であるし、書面の題名が「診断書」ではなく「証明書」となっている事情についても明らかになっていない。

Aさんが長期にわたって休職を続けていたことからすると、D社がこの「証明書」のみをもってAさんの復職の可否を判断することができず、G医師に証明書作成に至る事情等を聴取したいと考えたことは当然である。

そしてそれ以前にも、D社はAさんの医師の選択を考慮して、管理職ユニオンが紹介した医師やAさんが診断を受けた医師でも良いとした上で、診断書提出期限もAさんの申し出により3回も延期し、さらにその間自宅待機としている事情からすると、D社は復職にあたって相当な措置を講じていたというべきで、Aさんの退職を前提とした解決を当初から図っていたとは認められない。

もし復職できるとしても、復職後の職務に相応の配慮をするためにはそれなりの判断資料が必要であることからも、AさんはD社に就労することが可能と判断できるだけの資料を提出するべきであったが、Aさんはそのような資料を全く提出せず、結局D社はAさんが治癒したと判断することができなかったのであるから、この解雇は社会通念上相当な合理的理由があるといわざるを得ない。

 

(参考判例)

大建工業事件

 

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