更衣、朝礼、休憩、仮眠時間の扱い

 

更衣時間や朝礼時間は労働時間か?休憩時間や仮眠時間とされていても、労働者が自由に休めないなら、労働時間に当たるか?

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

 

事件の経緯

Y社は警備業務を行う会社です。

Aさんは、Y社の社員で警備業務に従事しており、月13回の宿直勤務を行っていました。

宿直勤務は24時間の連続勤務で、勤務表によって各人の勤務予定が割り当てられていました。

勤務条件は次のようなものです。

・始業時刻 午前9時
・終業時刻 翌日午前9時
・仮眠時間 1宿直勤務につき4時間
・休憩時間 日勤中1時間、深夜時間帯30分

Aさんらは、未払い賃金の請求を、会社に訴えました。

両者の主張は、次の通りです。

 

Aさんらの主張1:更衣時間や朝礼時間について

私たちは、制服に着替えることを義務づけられていしたし、午前8時40分から前夜の宿直者との引継ぎのため、朝礼に出席することも義務づけられていました。

更衣時間と朝礼時間は、その日の業務を遂行するために必要な時間ですから、労働基準法上の労働時間に当たります。

始業時間は9時となっていますが、私たちは8時から8時15分までの間にはタイムカードを押して、遅くとも8時30分から着替えを始め、8時40分から朝礼をしていました。

 

Y社の主張1:更衣時間や朝礼時間について

朝礼は引継ぎを主な目的とするもので、緊急事態でもない限り引継事項はほとんどなく、実際の朝礼は短時間で済んでいたことがほとんどで、それこそ5分か10分で終わっていました。

着替えについてもせいぜい5分程度で済むはずです。

 

Aさんらの主張2:休憩時間について

私たちは、規程上では1時間30分の休憩時間が与えられていましたが、実際には休憩時間であっても突発の事態に備えて制服のままでいることを義務づけられていました。

つまり、休憩時間とは名ばかりで、実際は使用者の指揮命令から開放されない実労働時間でした。

具体的には、巡回日誌を見る、日報を確認する、本部に早めに入る等の実作業を行い、外部から施錠したかどうかの確認依頼の電話がかかってきた場合は、休憩シフトの警備員が対応し、依頼のあった部屋まで行って戸締りを確認し、灰皿や照明の確認等をしていました。

自由に外出することは認められておらず、警備室での待機を命じられており、食事も警備室で取ることとされていました。

また、警備長が打ち合わせのために呼ばれて不在の場合に穴埋めに入るのも休憩シフトの警備員の役割でした。

それに、巡回業務を担当する場合は、40分程度の巡回後に巡回日誌を15分から20分程度かけて詳細に記載しなければならず、巡回シフト中に休憩する余裕はありませんでした。

 

Y社の主張2:休憩時間について

休憩時間の1時間30分は、指揮命令から完全に解放された状態になっていました。

巡回は共用部分を見回ることが中心であって、大体20分から30分で完了しますし、記帳も5分程度で済むので、巡回時間としての割り当て1時間のうち30分は自由時間として利用することができます。

 

Aさんらの主張3:仮眠時間について

規程では4時間の仮眠時間が与えられることになっていますが、トラブル発生、救急車対応、不審者対応に備えて待機していなければならず、仮眠室からは離れることができません。

つまり、仮眠時間とは言っても労働から解放されているとは言えず、実労働時間に当たります。

 

Y社の主張3:仮眠時間について

2~3名が同時に仮眠室において制服を脱いで仮眠し、その間1名が警備室で執務し、もう1名が駐車場窓口における業務あるいは巡回業務などに従事していました。

発報があった場合には、警備室で執務をしている者が対応しており、仮眠中の者を起こしてまで対応することはありませし、会社として仮眠室での待機を指示したことはありません。

 

 

さて、この訴えの結末は・・・

 

 

労働者側の勝ち:一部を除いて、主張通り労働時間に当たる

 

【主旨】

 

この場合、Aさんの主張通りの時間ではないが、更衣時間と朝礼時間は労働時間に当たる

「労働時間」に該当するかどうかは、客観的に労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたかどうかで判断される。

証人の証言や本人尋問の結果によれば、朝礼に関しては出席が義務づけられており、始業時刻前に10分間行われていた。また、始業時刻前には制服に着替えることを義務づけられていて、着替えには少なくとも5分は必要だったことが認められる。

Aさんらは朝礼時間が20分間行われていたと主張するが、これを裏付ける証拠は存在せず、他の証言からすると10分間とするのが相当である。

また、Aさんらは、更衣時間として10分間は必要であるとの旨主張するが、これを裏付ける証拠はなく、社会通念上必要と認められる更衣時間は5分間とするのが妥当である。

従って、朝礼時間の10分間及び更衣時間の5分間は、労働時間であると言える。

 

この場合、休憩時間は労働時間に当たらない

「休憩時間」と言えるには、単に実作業に従事しないということでは足りず、使用者の指揮命令下から離脱していると言える必要がある。

証言や尋問の結果、休憩時間には飲食店で外食したり、食事を購入するために外出したり、あるいは仮眠をとる者もいるなど自由であったことなどを照らし合わせると、労働契約上の役務提供が義務付けられていなかったものと評価することができる。

Aさんらは休憩時間にも業務をしていると主張するが、提出された証拠からは、休憩時間における役務の提供を一般的に義務づけていたと評価することはできない。

 

この場合、仮眠時間も労働時間に当たる

仮眠時間についても、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることが保障されている必要がある。

したがって、不活動仮眠時間であっても、労働からの解放が保障されていない場合には、労基法上の労働時間にあたるというべきである。

証拠によると、
・責任者のほとんどが、非常時には仮眠者にも対応をさせる必要があると考えている。
・不審者や泥酔者に対応する場合などは、複数の警備員で対応するのが基本であるとされているが、現状仮眠中以外の者が常に複数待機している体制ではない。
・仮眠室には本部から連絡がとれるよう、内線電話が設置されている。
・現実に施錠の依頼や、不審者、泥酔者、救急車への対応を、仮眠者が行っていた。
などといった事実が認められる。

これらを考え合わせれば、労働契約に基づく義務として、仮眠時間中は、仮眠室における待機と警報や電話などに対し直ちに相当の対応をすることを義務づけられていると評価することができる。

したがって、Aさんらは仮眠中について不活動仮眠時間も含めて会社の指揮命令下に置かれており、仮眠時間中は労基法上の労働時間に当たる。

 

会社は未払い賃金を支払わなければならない

このため、更衣時間5分、朝礼時間10分、仮眠時間4時間については、労働時間と認められるから、会社はこれに対応する未払い賃金を支払わなければならない。

 

(参考判例)

ビル代行(宿直勤務)事件