部下の監督義務

 

部下の横領事件を見逃した上司を懲戒解雇にした。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯

 K社広島営業所の経理担当社員、Aさんの多額の横領が発覚しました。

 

その主な手口は、売掛金を偽造するものであり、被害額は約8,500万円にも上ります。

 

K社は、広島営業所長であったXさんに対して、所長として経理関係書類をチェックしていれば、このような横領は容易に発見できたし、被害額も増大しなかったとして、就業規則の懲戒規定「重大な過失により会社に損害を与えたとき」に該当するとし、Xさんを懲戒解雇しました。

 

Xさんは、解雇の無効を求めて、K社と争うことになりました。

 

Xさんの言い分は、以下の通りです。

「私が日常Aさんと接しているうえでは、特に疑うような不自然な事情はうかがえませんでした。」

 

「前任のN元所長が私に引継ぎをした際に、経理関係はAさんに任せて営業に専念すればよいと助言されました。このように広島営業所では、歴代の所長は経理担当者を信頼して営業に専念するとの方針であったのです。その方針に従った私には重大な落ち度はありません。」

 

「私も十分に反省しています。部下の管理につきましては、今後重々気をつけ、二度とこのような事態を招かないよういたしますので、この件で私に何らかの懲戒処分が必要だとしても、もう少し寛大な処分であってもよろしいのではないでしょうか?」

 

 

さて、この訴えの結末は...

 

会社側の勝ち:重大な過失により損害を与えたため懲戒解雇が妥当

 

【主 旨】

 Aさんの挙動にはやはり不審な点があり、Xさんはそれに気づいて然るべきでした。Aさんの1ヵ月の給料はせいぜい20万円程度であるにもかかわらず(もちろんそのことはXさんも重々承知している)、以下のようなことがあったのです。

・XさんはAさんと月に数回飲食をともにする機会がありましたが、そのたびにAさんが1・2万円を出していました。Xさんは受け取りを拒否もせず、精算を申し出ることもありませんでした。

 

・広島営業所では、従業員が残業する際に、夜食として中華料理の注文をしており、その回数は繁忙期には週に2・3回程度であったにもかかわらず、会社の経費で支払うのは月に2・3回であり、残りはAさんが支払っていました。Xさんがその精算を申し出ることはありませんでした。

 

・広島営業所において行われる歓送迎会や打上会の費用のうち、足りない分は常にAさんが支払っており、特に二次会分の費用については、参加者からほとんど費用を徴収していませんでした。Xさんはその精算を申し出たことはありませんでした。

 

Xさんの行為は、就業規則に定める懲戒事由「重大な過失により会社に損害を与えたとき」に該当する

 Xさんが、Aさんの横領行為に積極的に加担ないし関与していたとまでは断定できないものの、広島営業所長として経理関係書類をチェックしていれば容易にAさんの横領行為を発見できたのであり、とりわけ日計表と現預金残高を確認照合するなどしさえすれば容易であったにもかかわらず、その程度のことを怠ったため、Aさんの横領行為の発見が遅れ、被害額を著しく増大させたということができる。

 

適正な経理業務を行うべき立場であるのは明らか

 Xさんは広島営業所長であり、その重要な管理職としての立場に鑑みてみれば、営業所の適正な経理業務を行うことをその職責とすることは、特段の根拠規定がなくても明らかである。これらは、具体的な引継ぎや取り決めの文書化がないからといって、その認定が左右されるものではない。

 

Xさんには重大な過失があり、懲戒権の濫用にはあたらない

 XさんはAさんとしばしば飲食に出かけるなど、長時間密接に行動をともにしていたにもかかわらず、Xさんの経理上のチェックが全くなされなかったことから、かえってAさんの横領行為を助長したふしがあることが認められる。

 

まして、Aさんが月20万円程度の給料しかもらっていないのに、様々な飲食費を立て替えていることに対して、何らの疑問を呈することがなかったことを考え合わせれば、Xさんの義務違反の内容は重大な過失とはいえ、ほとんど故意に近い程度のものといって差し支えないものであり、今件の解雇が懲戒権の濫用として無効であるとのXさんの主張には理由がない。

 

(参考判例)

関西フエルトファブリック事件