非常勤嘱託契約更新の拒絶

 

定年選択制度により定年前に退職し、転進支援制度により就業を免除され給与を受給しながら転進活動をしていたが、業績悪化のため契約の更新を拒絶された。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯

K社は、平成10年4月1日、従業員に対し次の制度を導入することにしました。

 

【定年選択制度】
満48歳以上かつ勤続15年以上の従業員は、定年前であっても定年と同様の取り扱いで退職することができる。

 

【転進支援制度】
満55歳以上かつ勤続15年以上で、再就職や自営開業を希望する従業員の転進活動を支援する制度で、従業員は給与の支給を受けながら就業義務を免除され転進活動を行うことができる。

 

なお、上記制度を併用することができ、その場合は一旦退職した上で、会社と非常勤嘱託契約を締結し、月額20万円の支給を受けることができることになっています。

 

Aさんらは、定年選択制度と転進支援制度の併用を選択して、平成12年1月にK社を退職し、非常勤嘱託契約を締結しました。

 

上記2制度の適用を受けた従業員は約600人にものぼり、K社の一般管理費は大幅に削減されました。

 

ところが、受注高の落ち込みはそれを上回るものであり、K社は平成12年3月に上記制度を廃止し、経営の立て直しを図りました。

ところが、その後も経営環境の悪化が続き、平成14年9月にはK社は大幅な債務超過状態に陥ってしまいました。

 

転進支援制度に基づく非常勤嘱託契約を今後も継続するとなると、約4億6,000万円の費用を要することになるので、K社は「事業の都合上やむを得ない」と判断し、平成14年9月、Aさんらに平成15年1月までで非常勤嘱託契約を打ち切ることを通知しました。

 

Aさんらは、これを不服とし、会社を訴えることにしました。

 

 

Aさんらの主張

定年選択制度と転進支援制度の併用を選択した場合、会社は我々が満60歳になるまで月20万円を支払う約束をしています。

非常勤嘱託契約について、書面上では契約期間が1年間になっていても、それは自動更新されるという内容になっています。

 

そもそも会社は、我々に対して、満60歳まで月20万円が支給されることを強調して説明していたけれど、契約更新が拒絶される場合があることなどは一切説明していません。それにもかかわらず契約の更新を拒絶するのは、信義誠実の原則に反し無効です。

 

また、我々はすでにK社を退職しており、合理化の対象となる立場にはありません。非常勤嘱託契約自体が転進支援制度を現実化するため便宜的に締結されたものであり、一般の労働契約とは異なります。

会社は経営の悪化を理由に契約更新の拒絶を主張していますが、これは単に支払いが苦しいから支払わないと言っているにすぎず、契約社会においては全く容認できない主張です。

手当金の支払額を減額し支払期間を延長するなど、他に取り得る手段があるのではないでしょうか。

 

K社の主張

非常勤嘱託契約は、契約期間が1年とされており、「特段の事情」が存在するときは、期間満了の1ヶ月前までに通知することにより、契約の更新を拒絶することができます。

また、非常勤嘱託契約には、契約書に記載されていないことについては嘱託規程の定めによるものとされています。

 

この規程には、「会社は、事業の都合上やむを得ないと認められるときは、非常勤嘱託契約の更新を拒絶することができる」旨定められています。

 

実際に会社は平成14年9月には大幅な債務超過状態に陥っており、このまま非常勤嘱託契約を継続した場合、倒産の危険も免れないという「事業の都合上やむを得ないと認められる事由」が存在しています。

 

 

さて、この訴えの結末は...

 

 

会社側の勝ち:特段の事情があれば契約の更新を拒絶できる

 

【主旨】

無条件に60歳まで20万円支給すると保証したものではない

 

K社がAさんらと締結した非常勤嘱託契約は、契約期間を1年間とし、"当事者の特段の事情がない場合は"Aさんが満60歳になるまで契約が更新されるという内容であると認められる。

すなわち、「無条件にAさんらが満60歳になるまでの間月額20万円を支給する」ということを約束したものとは言いがたい。

非常勤嘱託契約を締結するに当たって、契約期間が1年間であり、これが更新されていくということを、K社が殊更に隠したとも認められず、Aさんらは契約期間が1年であることを認識しながらも、まさか更新拒絶の事態はないだろうという楽観的な予測のもとに、契約を締結したのだと解釈せざるをえない。

 

特段の事情があれば契約の更新を拒絶できる

非常勤嘱託契約には、期間満了の1ヶ月前に会社が特段の意思表示をした場合、契約の更新拒絶ができると規定している。

また、非常勤嘱託規程には「事業の都合上やむを得ないと認められたとき」には嘱託を解職する旨規定している。

これらを鑑みると、会社は事業の都合上やむを得ない事由が存在するときは、期間満了1ヶ月前に特段の意思表示をすることにより、非常勤嘱託契約の更新を拒絶することができると解釈するのが相当である。

 

契約更新を拒絶するに足る「特段の事情」が存在したと認められる

実際に、K社の経営環境は、制度導入当時の予想を大幅に上回る悪化が続いている。

また会社は、一般管理費・コストの徹底削減・資産の処分・役員報酬の大幅カット・従業員に対する賞与の引き下げ・月例給の引き下げ・出向先開拓派遣・特別早期退職等、およそ考えられる合理化策を全て実施しているが、平成14年9月末日時点の経営状況は依然として悪く、約3,000億円の債務超過状態にあった。

なお、転進支援制度に基づく非常勤嘱託契約を今後も継続すれば、約4億6,000万円が必要になり、倒産の危機に瀕し、金融機関に3,200億円の債務免除を求めている会社には、非常勤嘱託契約を継続していくだけの経済的体力がなくなっていたことが認められる。

これらの事情を考慮すると、会社には事業の都合上やむを得ない事由が存在していると認められる。

 

(参考判例)

熊谷組事件