痴漢行為

 

電車内で痴漢行為を行ったので、懲戒解雇にして退職金を支払わなかった。

 

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

 

事件の経緯

 Aは、B社に勤めて20年になる、普段はまじめな男だった。

 

ところが、平成14年5月、京王井の頭線の神泉駅付近で、その電車に乗っていた女子大生に対してスカートの上からお尻をなでるという痴漢行為を行い、目黒警察署に逮捕された。

逮捕拘留後は、東京都迷惑防止条例で略式起訴され、20万円の罰金を納めて釈放されたのであった。

 

これをきっかけにB社が調査したところ、その3年前にも、痴漢行為により罰金刑に処せられていたことがわかった。

 

B社は賞罰委員会を開催して、Aを昇給停止および降職処分とした。本人の勤務態度を勘案し、再出発を願ってのチャンスを与えたつもりだった。

 

それにもかかわらず、平成14年11月、JR京浜東北線の大宮駅付近で女子高生に対して、またも痴漢行為をはたらいた。

大宮警察署に逮捕され、逮捕拘留後、埼玉県迷惑条例違反で起訴された。

 

B社は、拘留中のAに3回ほど面会したが、Aは「この痴漢行為についての事実を全面的に認めるとともに、会社のいかなる処分に対しても一切の弁明をしない」との記載のある"自認書"に、自ら署名捺印した。

 

B社は、賞罰委員会の討議を経て、Aを懲戒解雇とし、さらに就業規則に従って、退職金を不支給とした。

 

労働者Aの主張

 "自認書"については、警察の係官が立ち会う中、ガラス越しに10分程度話しただけで、会社が用意した文章を、内容を検討するゆとりも与えられずに、すぐに署名を求められたものだから、自由意思にもとづいて署名したとは言えません。

 実質的には弁明の余地が与えられたとは言えないから、手続上問題があります。

 

また、痴漢自体は重大な犯罪行為であることは認めますが、業務には関係しない私生活上のことです。

このことで会社名が公表されたわけではありませんし、社会的信用が傷ついたとは思えません。

 

これらを考え合わせれば、懲戒解雇にしても、退職金の不支給にしても、罰としてあまりにも重すぎます。

 

 

さて、この訴えの結末は...

 

会社側の勝ち:社会的評価に悪影響を及ぼすので、懲戒解雇は妥当

 

【主 旨】

手続上の問題はない

 Aは一度痴漢行為が発覚し、昇給停止及び降職処分という懲戒を受け、反省を促されているにもかかわらず、懲りずにも数ヵ月後に痴漢行為を働いている。

 

自認書も、数度の面会を経てのものであり、十分弁明の機会は与えられていると判断できる。

 

懲戒解雇は相当な処置

 営利を目的とする会社がその名誉、信用など、社会的評価を維持することは、会社の存続および事業の運営にとって不可欠である。

 

そのため、従業員の行為が会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるおそれがあると客観的に認められる場合には、それが会社と直接関係のない私生活上の行為であったとしても、制裁としてその従業員を会社から排除できる。

 

この場合、具体的に取引上の不利益が発生したかどうかは、必ずしも必要ない。

 

退職金不支給は有効

 B社の退職金支給規則には「懲戒解雇により退職するもの、または在職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分決定以前に退職するものには、原則として、退職金は支給しない」と規定してあり、退職金不支給の処分には根拠がある。

 

まして、常習性もうかがうことができる極めて破廉恥な行為であり、たとえAが20年あまりまじめに勤務したとしても、それまでの勤続の労を抹消してしまうほどの不信行為と言わざるを得ず、Aの主張を採用することはできない。

 

(参考判例)

小田急電鉄(退職金請求)事件